六ヶ所村レポート

この夏、青森に行った帰りに、核燃料再処理施設を建設中の六ヶ所村に立ち寄ってきました。バスの便の関係で、わずか1時間だけの滞在でしたが、現地の様子を知るには大変役に立ちました。ここでは、現地に行って感じたことなどをレポートします。(國弘)



●六ヶ所村訪問(98年8月3日)

青森県下北半島の付け根にあるJR野辺地駅からバスに乗り、六ヶ所村をめざす。
野辺地駅〜六ヶ所村間のバスは1日に5往復。およそ2時間に1本。乗客は自分も含めて5人だけだ。車窓から見える景色は、トウモロコシ畑、牧草地、水田地帯、広大な森林、そして時々人家がある。まったく田舎である。

しかし、突如として目を疑うような巨大なタンクが姿を現した。”むつ小川原国家石油備蓄基地”の石油タンク群である。高さ24m、内径81.5mの巨大なタンクが50基あまり建ち並んでいる。バスからはその中の一部のタンクしか見えないが、その大きさに圧倒されてしまう。備蓄基地の総面積は240ha。数字で書くと感覚的に分かりづらいが、祝島の面積のおよそ3分の1の広さである。

次に姿を見せたのが、”六ヶ所原燃PRセンター”の建物である。あたりの景色とはおよそ不釣り合いなこの建物には、使用済み核燃料の再処理工場やウラン濃縮工場に関する展示などがあるらしい。

そして、なぜか六ヶ所カントリークラブというゴルフ場もあった。

それから、フェンスに囲まれた、日本原燃鰍フ保有する広大な土地。ここには核廃棄物再処理工場や低レベル放射性廃棄物埋設センターが建設されている。

 (写真:フェンスに囲まれた日本原燃鰍フ土地)

野辺地駅からおよそ60分で六ヶ所村役場に到着。ここでバスを降りる。村役場は4階建ての立派な庁舎だ。
とりあえず村役場で観光地図をもらい、メインストリートと思われる国道338号線に沿って歩いてみる。
そこはなんの変哲もない田舎町という感じだ。人通りも少ない。従来から六ヶ所村に住んでいる人たちはこのあたりを中心に暮らしているのだろう。しばらく歩くと尾駁(おぶち)沼に出た。広大で美しい汽水湖である。水深4mのこの湖は野鳥や渡り鳥の繁殖地にもなっているらしい。

(写真:国道338号線と尾駁沼)

そこから坂道を登り、むつ小川原開発のために山を切り開いたと思われる高台に作られた尾駁レイクタウンと呼ばれる地区に行ってみた。そこにはショッピングセンターや図書館などがあり、尾駁沼を見下ろすように日本原燃鰍ネど関連企業の住宅群が建っていた。

(写真:ショッピングセンターと原燃の住宅)

そこは先ほどまで歩いていた、従来からの村民の住む地区とはまるで別の街であるように思えた。
国家プロジェクトという名のもとに、強引に原野を切り開き、一つの村の中に、核再処理施設等で働く新住民たちのために、まったく別の街が作り上げられている。おそらくあのゴルフ場も彼ら新住民のための施設なのであろう。
美しい尾駁沼も湖畔の半分は日本原燃鰍フ所有地になっており、低レベル放射性廃棄物埋設センターなどが建設されている。果たしていつまで野鳥たちのオアシスとして、その美しい姿を保てるのだろうか。


●村の発展=住民の幸せか?

核燃料再処理施設等を受け入れることで、六ヶ所村には莫大な補助金が入り、村の財政は潤っているのかもしれない。しかし、住民がそれによって幸せになったかという点については疑問がある。補助金によっていろいろな施設ができて便利になっても、核とともに生きていくことの不安、受け入れに対する意見の違いによる住民同士の亀裂、破壊される自然環境等によって失うものは、得られる便利さより遙かに大きいように思える。そして、近い将来、減り続ける旧住民と増え続ける新住民(再処理施設関係者たち)の間で行政に対する力関係が逆転するであろう。そうなったとき、もはや行政は核燃料再処理施設に対して不利になるような選択はできなくなる。

蛇足ではあるが、現在六ヶ所村の面積の3分の1は、むつ小川原工業基地の土地になっており、その事業主体である「むつ小川原開発」は約2300億円の債務を抱えている。この事業は国家プロジェクトであるので、我々の税金もここに使われているのである..。



●貯まり続ける使用済み核燃料

ところで、現在、日本の核燃料サイクル構想は大きな岐路に立っている。核燃料サイクルとは、全国の原発から出てくる使用済み核燃料を、ここ六ヶ所村に建設中の再処理工場でプルトニウムに変換し、プルトニウムを高速増殖炉で使って発電し、そこから出る使用済み核燃料を再び再処理工場でプルトニウムに変換するという構想だ。しかし、高速増殖炉「もんじゅ」の事故により、このサイクルの実現の見通しはまったく立たなくなっている。変わって、浮上してきたのがプルサーマルという方法である。これは再処理工場で作られたプルトニウムをウラン燃料に混ぜて、通常の原発で使うというものである。しかし、この方法もまだ安全性についてまったく検証されていない。
プルトニウムは核兵器の材料として使われるため、発電に使うという明確な使用目的がない限り作ってはいけないことになっており、上記の核燃料サイクルの見通しが立たないと言うことは、再処理工場が完成したとしても(まだ建設中)、工場を稼働させてプルトニウムを作ることはできない。工場が稼働しないということは、全国の原発から出てくる使用済み核燃料の処理ができないということである。日本全国の原発からは年間900トンもの使用済み核燃料が排出され続けており、この使用済み核燃料の行き場がないのである。今のところは原発施設内の貯蔵プールに貯められているが、もう満杯状態のところもある。
六ヶ所村には貯蔵プールだけ完成しており、この秋から全国の数カ所の原発から使用済み核燃料が運び込まれることになっている。しかし、核燃料サイクルの見通しが立っていないため、受け入れる青森県では使用済み核燃料が青森県内に貯まり続けることを懸念して、日本原燃鰍ニ「再処理事業が困難になった場合は、いったん受け入れた使用済み核燃料を施設外(県外)に運び出すこと」という覚え書きを交わしている。もし、このような事態になった場合は、使用済み核燃料は再び全国の原発に戻されることになるのだろうか?それとも直接廃棄処分されるのだろうか?そうなるとどんな方法でどこに廃棄するのかという新たな大問題が出てくる。

●増え続ける核のゴミをどうするのか?

今後、何らかの方法で核燃料サイクルがうまく動き出したとしても、再処理施設でウランとプルトニウムを回収された後の使用済み核燃料は高レベル放射性廃棄物(いわゆる核のゴミ)として処分しなくてはならない。この高レベル放射性廃棄物は強い放射線と熱を放出している。今のところ、ガラス素材と混ぜ合わせて固化した後、30〜50年間冷却貯蔵し、地下数百メートル以上の深い地層中に処分すると言われているが、はたして、この方法で本当に安全性は保たれるのか、何の保証もない。
既に、海外の再処理施設で処理された高レベル放射性廃棄物の日本への返還が開始されており、六ヶ所村の貯蔵施設で一時保管されている。

●原発増設より省エネ対策を

いずれにしても、既存の原発を動かすだけでも、貯まり続ける一方の核廃棄物。その処分方法も確立していないのに、日本政府や電力会社は無責任にも、「これからも電力使用量は増え続けることが予想され..」という勝手な仮説を立てて、原発を増やそうとしているのである。だいたい、通常時の電力は余っており、発電所をフル稼働する必要があるのは、夏の昼間のピーク時だけなのである。ということは、我々がちょっと暑いのを我慢すれば日本の発電所の何%かは必要なくなるのである。しかも、原発は他の発電所と比べて細かい調節ができないから、夜間だろうがなんだろうが一定の出力で動かし続けるため、夜間電力などは余って仕方ないのである。こう考えると、政府も電力会社も、多くの問題を抱えている原発は減らす方向の努力をすべきであり、原発のPRや土地の買収や補償金などに無駄な金(この金も我々の払う税金や電気料金に含まれている)を使うよりは、省エネルギーの研究に金を使った方が地球環境の改善のためにも余程役に立つのである。

●上関原発を考える

「村の発展は必ずしも村民の幸せには結びつかない」という六ヶ所村での構図は、上関町でも全く同じことが言えるだろう。原発の補助金でいくら町が裕福になっても、上関町民が幸せになれるという保証はどこにもないのである。むしろ、住民同士の亀裂という点で、もう15年間も大きな不幸を町民に強いてきているのである。さらに、これからの町おこし、島おこしを考えると、原発の存在はデメリットばかりで、例えば農産物や水産物を売りだそうとしても、「原発」のイメージを払拭することは並大抵の努力ではできない。何より、そこに住む人たちは、「原発の海」で獲れた魚を食べ続けなければならないのである。現在では通信ネットワークの発達によって、田舎にいても才能さえあれば十分に仕事がやっていける時代になっているので、何も原発などという厄介者を誘致しなくても、若者の雇用確保や町おこしの道はいろいろと考えられる。逆に、原発は町おこしの道を閉ざすことになる可能性の方が高い。このことを、上関町の片山町長はどう考えているのだろうか?未だに「原発誘致しか町の発展は考えられない」といような古い考えに固執しているようでは上関町に明日はないだろう。


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