中電の提出した環境リポートに関して



 中国電力が4月27日に、上関原子力発電所の環境影響調査書(環境リポート)を通産省・資源エネルギー庁に提出しました。町民の半数近くが反対し、用地取得、漁業補償ともに交渉が難航している状況での環境リポートの提出は中電の暴挙と言っても過言ではありません。中電がこのようなことを行うのは、6月12日に施行される環境影響評価法(環境アセス法)の前に提出しないと、環境評価がやり直しになるからです。今回提出された環境リポートは、中電技術コンサルタント鰍ニいう、いわば中電の身内が行った評価であり、原発建設のための単なる事務手続き的なもので、その評価が客観的で正当な評価とは思えません。もしかしたら、環境アセス法に従って、第三者が環境影響評価を行った場合には、違った結果になる可能性は大いにあるということかも知れません。

 5月6日に柳井市役所に出向いて、環境リポートを見てきましたので、内容について報告します。(本来なら、中電がインターネット等で誰でもどこからでも自由に見られるようにするくらいのことはすべきだと思うのですが、本音はできるだけ見て欲しくないのかも。)

  ■縦覧の様子
 

 まず、報告書はB4サイズで厚さ4cmくらいあり、とてもじゃないけど短時間で全部を見切れるものではありません。しかし、その4分の3くらいは、現在の環境状況の調査報告であり、原発建設による影響と評価についての記述は、残りの4分の1の中のそのまた一部でしかありません。本当にこれで評価したの?って感じです。それでも全部見るには時間がなかったので、「コピーもらえますか?」と聞くと、「有料です。1冊全部コピーすると1万5千円くらいになりますが。」と言われ、必要な部分だけ指定してコピーを送ってもらいました。


 さて、内容の方ですが、目次は以下のようになっています。

1.発電所の計画概要
2.環境の現況
3.環境保全のために講じようとする対策
4.環境影響の予測および評価
5.その他環境保全のために講じようとする措置
6.総合評価

 ここでは全てを紹介しきれないので、ポイントだけ紹介します。まず、「1.発電所の計画概要」の中から、発電所完成予想図と発電所全体配置計画を掲載します。

   ■発電所完成予想図   ■発電所全体配置計画

 「2.環境の現況」については、上にも書きましたがあまりにも大量のデータで、載せきれませんので省略します。よくもまあこれだけのデータを集めたものだと感心しました。
 3〜5の項目については、縦覧場所で配布していた「建設計画と環境影響調査のあらまし」という、中電の作ったパンフレットに短くまとめられていましたので、それを掲載します。


◎環境保全のための対策と予測評価

◆◆◆ 運転開始後 ◆◆◆

=== 温排水 ===

 <取放水対策>
 冷却水の取放水にあたっては、発電所周辺海域の地形、海象などの状況をふまえ、漁業や海生生物などへの影響の低減を図ります。
 冷却水は、北側に設けるカーテンウォールから、海面下約10〜14メートルの深さより、毎秒約0.2メートルの流速で深層取水します。そして、南側に設ける放水口から、海面下約17メートルの深さより、毎秒約3メートルの流速で水中放水します。
 また、冷却水量は1、2号機合計で毎秒190立方メートルで、取水と放水の温度差は7℃以下とします。

  ■取放水設備の概念図

 <拡散予測>
 温排水の拡散範囲は、海域の地形や流れなどを考慮した水理模型実験により予測を行いました。その結果は右図のとおりです。

  ■温排水拡散予測範囲図(1,2号機運転時、海面下0.5mの1℃上昇包絡範囲)

  ■垂直方向の水温分布

・潮間帯生物
 温排水は、水中放水することにより拡散予測範囲が放水口近傍に限られ、潮間帯生物が分布する沿岸部に及ばないことから、潮間帯生物への影響はないものと考えられます。

・海藻草類、底生生物
 海藻草類及び底生生物は、発電所計画地点周辺海域に広く分布していること、温排水は水中放水することにより、放水後速やかに浮上拡散し、その拡散予測範囲は放水口に限られることから、海藻草類及び底生生物への影響は少ないものと考えられます。

・魚等の遊泳動物
 魚等の遊泳動物は、ほとんどが広温性であること、遊泳力を有すること、あるいは主として中・底層に生息していること、温排水は水中放水することにより、放水後速やかに浮上拡散し、その拡散予測範囲は放水口に限られることから、魚等の遊泳動物への影響は少ないものと考えられます。

・卵・稚仔、プランクトン
 卵・稚仔、プランクトンは、冷却水の復水器通過により多少の影響を受けると考えられますが、発電所計画地点周辺海域に広く分布していることから、卵・稚仔、プランクトンへの影響は少ないものと考えられます。

 <漁業への影響>
 温排水は水中放水することにより、放水後速やかに浮上拡散し、その拡散予測範囲は放水口に限られることから、漁業への影響は少ないものと考えられます。


=== 大気汚染 ===

 補助ボイラーは、発電所の暖房、発電設備の起動・停止時などに使用しますが、良質な燃料(A重油)を使用するとともに、低NOxバーナーを採用することから、周辺の環境への影響はほとんどないものと考えられます。


=== 一般排水 ===

 一般排水は、排水処理装置により適切に処理した後排水することから、海域の水質への影響はほとんどないものと考えられます。


=== 騒音・振動 ===

 騒音・振動の発生源となる機器は、低騒音型等の採用、建物内あるいは強固な基礎の上に設置することから、周辺の生活環境への影響は少ないものと考えられます。


=== 陸生生物・緑化計画 ===

 発電所の設置にあたっては、土地の改変面積及び樹木の伐採範囲を必要最小限にとどめ、極力既存植生の保存に努めます。また、改変する区域の緑化にあたっては、鳥類などの好む食餌植物を取り入れた植栽を行うことから、周辺の陸生生物への影響は少ないものと考えられます。


=== 陸水 ===

発電用水は敷地内に貯水槽を設置し、渓流水を取水し賄うこととしており、陸水への影響はないものと考えられます。


=== 陸上交通 ===

 通勤車両及び保修用資機材運搬車両などの運行にあたっては、交通規則の遵守、安全運転の励行などの指導及び監督を行い、交通安全に万全を期するよう配慮することから、周辺の一般交通などへの影響は少ないものと考えられます。


=== 自然景観 ===

 発電所の設置にあたっては、適切な緑化を行うとともに、発電所建物などの配置、形状及び色彩に配慮することから、周辺の自然景観との調和が図られるのもと考えられます。


◆◆◆ 工事中 ◆◆◆

=== 大気汚染 ===

 建設機械などからの排出ガスについては、工事量の平準化を図ることにより、集中的に排出されることを防止するとともに、機械の整備を行うなどの対策を講じることから、周辺の環境への影響は少ないものと考えられます。


=== 水質汚濁 ===

 海域工事にあたっては、必要に応じて施工場所周囲に汚濁拡散防止膜を設置します。また、陸域工事などに伴う排水については、仮設の沈殿池などにより処理した後排水することから、海域の水質への影響は少ないものと考えられます。


=== 騒音・振動 ===

 主要な発生源となる建設機械などは、低騒音・低振動型の機械を選定するとともに、適宜騒音・振動レベルを測定し必要に応じて対策を講じることから、周辺の生活環境への影響は少ないものと考えられます。


=== 工事用資機材の輸送 ===

 陸上輸送にあたっては、関係機関と十分調整を図るとともに、計画的な運行により車両が短期間に集中しないよう配慮します。また、運転者に対しては交通規則の遵守、安全運転の励行などの指導及び監督を行うことから、周辺の一般交通などへの影響は少ないものと考えられます。
 海上輸送にあたっては、関係機関と十分調整を図るとともに、計画的な運行により安全の確保に努めることから、漁船の操業や他の船舶の運航への影響は少ないものと考えられます。


=== 堀削した土石の処理 ===

 敷地造成、基礎堀削及び浚渫により発生する土砂及び岩は、極力盛土、埋立及び海岸構造物基礎に利用し、残土は地元自治体事業などに供給します。
 切取岩仮置場については、法面を安定勾配とするほか、工事中に砂じんが発生する恐れがある場合には、適宜散水し、砂じんの発生を防止することから、周辺の環境への影響は少ないものと考えられます。




 (補足)漁業に関する影響予測は重要と思われますので、環境リポートから全文を転載します。

 調査海域で営まれている漁業は、小型機船底びき網漁業、建網漁業、まきえづり・一本釣漁業、延なわ漁業、壺網漁業、機船船びき網漁業、ごち網漁業、たこづぼ漁業、かご漁業、いか巣網漁業、採貝・採藻漁業である。
 温排水によるこれら漁業への影響および評価は、次のとおりである。
 なお、これらの漁業のうち小型機船底びき網漁業、建網漁業、まきえづり・一本釣漁業、延なわ漁業、壺網漁業、機船船びき網漁業、たこづぼ漁業、採貝・採藻漁業については、埋立により漁場の一部が消滅することとなる。

 イ.小型機船底びき網漁業、建網漁業、まきえづり・一本釣漁業、延なわ漁業、たこづぼ漁業、かご漁業、いか巣網漁業
 かれい類、えび類、こういか類、なまこ類を対象とした小型機船底びき網漁業、かれい類、まだい、めばる類、かさご類、さざえを対象とした建網漁業、まあじ、ぶり類、たちうお、まだいを対象としたまきえづり・一本釣漁業、かれい類、はも、ふぐ類を対象とした延なわ漁業、たこ類を対象としたたこづぼ漁業、あなご類、めばる類、かさご類、たこ類を対象としたかご漁業、こういか類を対象としたいか巣網漁業が行われている。
 温排水の拡散予測範囲はこれら漁場の一部に及ぶが、ほとんどが広温性であること、遊泳力を有すること、あるいは主として中・底層に生息していること、温排水は深層から水中放水することにより、放水後速やかに浮上拡散し、その拡散予測範囲は放水口近傍に限られることから、漁業への影響は少ないものと考えられる。

 ロ.機船船びき網漁業
 いわし類を対象とした機船船びき網漁業が行われている。
 温排水の拡散予測範囲のごく一部が漁場に及ぶが、これらの漁業対象魚は広温性であること、遊泳力を有することから、漁業への影響は少ないものと考えられる。

 ハ.ごち網漁業
 まだい、はも、すずきを対象としたごち網漁業が行われている。
 温排水は深層から水中放水することにより、放水後速やかに浮上拡散し、その拡散予測範囲は放水口近傍に限られ、漁場には及ばないことから、漁業への影響はないものと考えられる。

 ニ.壺網漁業、採貝・採藻漁業
 まあじ、ぶり類、たちうお、すずきを対象とした壺網漁業、あわび類、さざえ、わかめ類、ふのり類を対象とした採貝・採藻漁業が岸寄りの海域で行われている。
 温排水は、海岸から100m程度沖合の深層から水中放水するため、これらの漁場には及ばないことから、漁業への影響はないものと考えられる。



 <環境リポートについての考察>

 まず、環境評価を行ったのが中電技術コンサルタント鰍ニいう、いわば中電の身内が行ったものであり、この時点ですでに評価の正当性については怪しいと言わざるをえません。内容を見ても、我々から見ると明らかに環境に影響があると思われるにもかかわらず、「影響は少ないと考えられる。」という結論づけがされています。その判断基準もさっぱり分かりません。

 例えば、完成予想図を見ていただくと分かるように、長島は無惨に切り崩されて、周囲の景色にそぐわない巨大な建造物が出現することになります。しかも、祝島の真っ正面です。祝島から眺める景色の中に、こんなものが存在するだけで興ざめですね。それでも、環境リポートには「周辺の自然景観との調和が図られるのもと考えられます。」と書かれています。ふざけるな!って感じです。

 温排水の漁業への影響についても、例えば、まだいに関して見てみると、一方では「一部漁場に及ぶが対象魚は遊泳力を有するので影響は少ない」と書きながら、一方では「漁場に及ばないから影響はない」と書かれています。このあたりは、自分たちの都合の良いように解釈しているとしか思えません。遊泳力があるのなら、温排水が漁場に及ばなくても、魚が温排水の影響を受ける範囲に入ってくることも十分に考えられるはずです。また、温排水の影響で、将来的に周囲の生態系がどのように変化するかといった検討は何もなされていません。そもそも、水温分布の実験自体も、非常に狭い範囲のモデルで、限られた条件下での実験にすぎず、実際の気象状況の変化等による、温度分布の変化などはまったく検討されていません。このリポートで「漁場には及ばない」と書かれていても、実際には及ぶ可能性は大いにあり得るわけです。
 ところで、温排水そのものの分布はどのようになるのでしょうか?リポートには温度の分布しか記載されていません。万一、温排水に何らかの物質や放射能が含まれていた場合に、それらが周囲にどのように拡散していくのか、どの範囲まで影響があるのか、このリポートではさっぱりわかりません。

 それから、非常に気になるのは、騒音に関してです。実測および予測データでは、現在27〜39dBという非常に静かな環境が、発電所運転時は41〜54dBという高い値になります。工事中に至っては、最大64〜77dBと予測されています。にもかかわらず、「周辺の生活環境への影響は少ないものと考えられます」という結論が出されています。我々が考えると、明らかに生活環境に影響があると思えます。また、ここで、「生活環境への影響」と書かれているところがミソで、周囲に生息している動物等の自然環境への影響についてはノーコメントといった感じです。さらに、ここで言う騒音は空気中での騒音であり、水中の騒音については何一つ記載がありません。これは、音に敏感な魚類には大きな影響を与える恐れがあります。ある意味では、温排水の影響より大きい可能性もあります。

 私が少し見ただけでも、このような問題点があります。きっともっと多くの問題点を含んでいると思います。上関町は、中国電力に対して、第三者による環境影響調査のやり直しを求めるべきでしょう。



 この環境リポートに関する意見の送り先は下記です。郵送で受け付けているようです。

 〒730−8790  広島中央郵便局私書箱第12号

   中国電力株式会社 立地環境部
   環境調査担当ご意見承り係行

「上関原子力発電所(1、2号機)環境影響調査書に対する意見書」と明記し、住所・氏名・年齢・ご意見を書いて送るようになっています。




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